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京都地方裁判所 昭和30年(行)1号 判決 1965年11月08日

原告 中尾政数

被告 右京税務署長

訴訟代理人 金子正 外四名

主文

被告が昭和二八年五月三〇日付を以てなした原告の昭和二七年度分所得税の確定申告に対する更正処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告主張の請求原告第一項の事実はすべて当事者間に争いがない。

成立に争のない甲第三号証、同第四号証によると、被告のなした本件更正処分にはその通知書に、更正の理由として「売上金の過少、八二七、〇〇〇円」、再調査決定にはその通知書に棄却の理由として「原処分は正当であり、不服の事由については売上、仕入洩れがあり所得税法第四八条第五項第二号の規定により再調査の請求には理由がない」とそれぞれ記載されていることが認められる。

二、そこでまず、本件更正通知書に記載されている理由は抽象的画一的で所得税法第四六条の二、第二項に規定する理由の附記とはいえないから右更正処分は違法であつて取消さるべきであるとの原告の主張について考察する。

所得税法(昭和二九年法律第五二号による改正前のものを指す、以下同様)第四六条の二第一項は青色申告者に対する更正については、その帳簿書類を調査し、その調査により所得の計算に誤りがあると認められる場合に限りこれをなすことができる旨規定する。つまり青色申告者は税法所定の帳簿書類を備え、それに基いて申告をしているので青色申告者に対して更正するにはその帳簿と実際の調査との間に明確なくい違いがある場合に限る、として帳簿の記載を無視して更正されないことを納税者に保障している。だから更正する以上は帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにすることが必要であるといえる。また所得税法第四六条の二第二項の理由附記の規定が青色申告者を保護する目的に出たものであることは同法第四六条が青色申告者以外の者に対する更正処分通知書には、単にいわゆる所得金額の所得の内訳を附記することを要求するにとどまつていることからも明らかである。従つて同項の規定によつて附記すべき理由は、帳簿書類の記載、計算の誤がどの点にあるかを具体的に根拠を示して摘示することが必要であると解するのが相当であり、その記載が具体性を欠くにおいては更正処分自体の取消を免かれないものといわなければならない。(最高裁判所昭和三八年五月三一日判決民集一七巻四号六一七頁参照)。

ところが本件更生通知書に附記された前記理由は、それが被告のいう如く、「原告の帳簿のうち総勘定元帳の売上勘定貸方欄において計上洩れが八二七、〇〇〇円ある。」ということを意味するとしても、その金額がいかなる根拠に基くものかが右の記載自体から納税者たる原告がこれを知ることはできないからそれをもつて所得税法第四六条の二第二項に規定する理由附記の要件を満たしているものとは認め得ない。(被告は、原告が日々の現金売上を一括記帳しているから脱漏取引を一々指摘することが不可能であると主張するが、被告は青色申告している原告に対し現に更生処分をしたのであるからその更正の理由として処分の根拠を具体的に附記すべきは当然であつてこの点の被告の主張は理由がない。)

更正処分通知書の理由が不備であつても、書面をもつて、これを追完した場合には、理由不備の瑕疵は治癒せられるものと解すべきところ、再調査処分書に記載された理由は前記のとおりであり、成立に争のない甲第五号証(審査決定通知書)には決定の理由として「審査請求には一部理由があるので原決定の一部取消する」と記載されていることが認められるが、これらは、いずれも前記判断に照して単独では勿論本件更正処分通知書の記載と総合しても、本件更正処分に適法な理由を具備するものと認められず、その理由不備の瑕疵を治癒したものということはできない。

よつてその余の点を判断するまでもなく、本件更生処分は違法なものとしてこれを判断すべきであるから原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山中仙蔵 常安政夫 井筒宏成)

別表(一)~(八)<省略>

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